夕凪に映える月
さっきまでお兄ちゃんに“行って来い”って命令してたのに……。
変なあっちゃん。
不思議に思いながら玄関のドアを開けると、辺りはもう真っ暗になっていて、ビュウビュウと強い風が吹き付けていた。
――わ…!!
驚いて目を細めると
「な??こんな中に一人で行くのはイヤだろ??」
そう言ってあっちゃんは私の顔を覗き込む。
ちょ、ちょっと!!
久しぶりに会っただけでもドキドキしてるのに、そんな風に至近距離で見つめられたら、私の心臓は堪ったモンじゃない。
そんな動揺を隠すように
「そ、そうだね。
ありがと、あっちゃん。」
そっけなく呟いてフイッと顔を背けると
「とか言って、ただ俺がチョコ選びたかっただけなんだけどな。」
あっちゃんは私の頭をポンポンしながら、嬉しそうにクスクスと笑う。
外灯はほとんどなくて、真っ暗なコンビニまでの道。
冷たい風が体を冷やして、ほんのり淡く光る月が空には浮かんでいる。
あっちゃんと部活の帰りに見たあの夕焼けの日とは全く違う、気温と風景。
あれから3か月くらいしか経っていないのに、自然って過酷だ。
そんなことを思いながらテクテク歩いていると
「寒いのか?ナギ。」
「うん…ちょっとね。」
あっちゃんが心配そうに声をかける。
寒いというか、風が冷たいというか
お日様の光がないとこんなにも空気が冷たくなるのかと思うと悲しくなるというか……。
ハァとため息を吐いて、それでもテクテク歩いていると
「こんなとき虎徹がいたら、あっためてもらえるのにな。」
あっちゃんはこんなワケのわからない一言を呟き始める。