夕凪に映える月
冬の空気は張りつめたようにピンとしていて、頬を撫でる風は氷のように冷たい。
だけどあの時の私はそんなことはどうでもよくて、ただあっちゃんに向けて走り出していた。
カレがどう思うと、どう思われようとそんなことはどうでもよくて……ただ振り向いてくれただけで嬉しい。
そんな私は単純で、簡単で……どうしようもない。
そんな自分に初めて気付いた。
きっと私は、どうしようもない。
カレが来いっていったら無条件で飛びつくし
「寄るな!」って言われたらきっと私はスゴスゴと引き下がる。
恋愛は惚れた方が負け
そんな言葉があるけれど、本当にその通りだと思う。
私にとってはね??
あっちゃんの存在自体で“負け”なんだ。
カレがいるだけで……私はカレに引き寄せられて、どうしようもなくなってしまう。
冬の夜は早い。
夕焼けに染まる世界を見ながら、私はあっちゃんが好きだと言った、いつかの帰り道に遭遇する。
小高い丘。
峠と言っても過言ではない、曲がりくねった山道の眼下には荒れ狂う海が見える。
冬の風と冬の空気を受けて
漆黒に近い色をした海に、跳ね散る波しぶき
あの海の近くにあっちゃんがいる。
カレが何を考えていて
何を言おうとしてるのか、なんてどうでもよかった。
早く、会いたかった。
早く、速く、行きたかった。
どうやっても、どうあっても惹かれてしまう、彼の元に。