夕凪に映える月


海につながる、彼につながる道をただひたすらに自転車を漕いで、やっとのことで部室のある海辺に到着した時には、辺りは紺色の空に変わっていて。


彼は部室の前にある古ぼけたベンチに座って、ボーッと海を眺めていた。


—―やっぱり似合う。

彼はやっぱり海の側が一番似合う。


潮の香りも、太陽も、月も
海が側にあるだけで、あっちゃんはその魅力を格段に増していく。


『この景色から離れられない』


そんな彼の言葉を思い出して、私は心の中で大きく大きく頷いた。



きっとあっちゃんがこの海から離れられないいんじゃない。

多分、きっと、この海が⋯⋯あっちゃんを離したくないんだ。



そんなコトを思いながらボーっと彼を見つめていると


「⋯⋯ナギ。」


フッと視線を戻したあっちゃんと目が合う。



何日ぶり?
一か月ぶりだろうか。


感覚的にはもっと会ってない気がするけれど、久しぶりに会った彼は、思っていたよりもずっとずっと大人に見えた。



何か月か前。
そう。夏の時期にはこの海でお兄ちゃんとワイワイしながら、無邪気に遊んでいたのに⋯⋯。


「来てたなら早く呼べよ。」

「ご、ごめん。」

「まぁ⋯⋯いいけど。」


そう言って呆れたように笑うあっちゃんは記憶の中のあっちゃんよりもずっとずっと大人びていて……やっぱり自分なんかじゃ釣り合わない、素敵なオトコの人なんだと思えて、、、淋しくなった。


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