夕凪に映える月
後ろから抱きしめられて、気がつけば彼の胸板と私の背中がぴったりと張り付いていて。耳たぶには彼の熱い吐息がかかる。
——なに⋯⋯??
何が起こってるの??
自分の身に巻き起こった事件が理解できない。目の前は真っ白で思考回路は完全にフリーズしている。
わかっているのは……触れ合うカラダがひどく温かいコトだけ。
思考回路が止まる。
事件は私の予想をはるかに超えていて、カラダから力がスゥっと抜けていく。
手にしていたカバンが指先をすり抜けてドサリと地面に落ちたとき、彼は私の体を今まで以上に強く強く抱きしめながら、小さな声でこう呟いた。
「……ナギ。」
「……え………??」
「この一か月、ずっとずっと考えてた。この気持ちの正体が何なのか、自分はオマエをどう考えてるのか……ずっとずっとだ。」
頭の中は大混乱。考えるとか、行動するとか、そんなコト何一つできなくて、これが現実なのか夢なのかすらバカで子どもな私にはわからなくなっていた。
「あっ⋯ちゃん⋯⋯⋯。」
コレは都合のいい夢なんじゃないのかな。
この状況も、彼の吐息も、彼の言葉も、どれも全部疑わしい。
唯一信じられるのは、背中に感じる彼の熱い体温だけ。彼と触れた部分がとても温かいコトだけ。
ビュウビュウとキツい北風の音が耳にこだまする。ザバンと激しく打ち付ける波音が響く入り江であっちゃんは決心したように大きくため息を吐くと、切ない声でこう言った。
「好きだ、ナギ。
多分……出会った時から、ずっと、ずっと。」