夕凪に映える月
友達でもない
知り合いでもない
先輩でもお兄ちゃんでもない
ただの男の人になったあっちゃんが、ここにいる。
辺りはもう真っ暗になっていて、空には淡く光る月が海を照らしている。凍ったように、時が止まったように佇む私たちを月と波、そしてちいさな雪が見ていた。
荒ぶる波音と風の音
海に降る、小さな雪
そんな冬の音を背に、時が止まったように、あっちゃんに抱きしめられたままになっていると
「とりあえず⋯⋯中入ろうぜ。」
「⋯⋯え??」
「このままじゃ凍える!
中に確かストーブあっただろ、ストーブ!とりあえず一回あったまったら、一緒に帰ろう。」
そう言って、あっちゃんは私の背中からサッと離れた。
——淋しい。
彼のいなくなった背中。
なくなったぬくもりが切なくて、心の中にぽっかりと穴が開いたみたいだ。
そんな自分の気持ちを隠しながら落ちたカバンを手に取って、かじかむ指でカギを探す。カバンの奥に沈んでいた部室のカギを手に取ってゆっくりと扉を開くと
「おーー!寒いっ!!!」
あっちゃんはダッシュで部室の中に転がり込んだ。