夕凪に映える月
冬の間は使わない、海辺の部室。
電気のスイッチをつけると、入り口付近にはヨットの用具が所狭しとならんでいて、その奥にはみんなが体を休められるように、と配慮された休憩室がある。
少し埃っぽい部屋を真っ直ぐ進んで行くと休憩室の前には白いレトロな石油ストーブがポツンと1つ置いてあった。
「あ!ラッキー!
灯油、だいぶ残ってんじゃん~!!」
あっちゃんは嬉しそうに顔をほころばせ、ゆっくりと点火スイッチに手をかけてストーブに火をつけた。
ほの暗い部室に灯る、柔らかな赤い火。
——あったかい……
さっきまでの寒さが嘘のように、体がジワジワと暖まる。あったかな火に手をかざして暖を取っていると
「ナギ。いいもん見つけたぞ?ちょっと汚いけど、ないよりマシだろ。羽織ってろ。」
彼は休憩室の奥から一枚の毛布を見つけ出して、私の肩にゆっくりとかけた。
きっと海で冷えた体を温める為に⋯⋯って、誰かが持ってきたものなんだろう。少しだけ潮の香りのする毛布を羽織って、温かなストーブに当たっていると、体の芯から温まる。