夕凪に映える月


「じゃぁ⋯⋯なんでこの距離なの??」


そう尋ねた瞬間、彼は不思議そうに眉を歪める。


「どういうこと??」

「だって⋯⋯好きな相手ならさ??近くに行きたいとか、触れたいとか思わないのかな~~って思って⋯⋯。」


少なくとも私はあっちゃんの近くに行きたいっていつもいつも思ってた。少しでも近くにいけると嬉しくて、うっかり手と手がぶつかった時には心臓が跳ね上がって胸が痛いくらいにドキドキしてた。



ズルい、よね。
自分の気持ちは言わないくせに相手の気持ちは探るようなコトするなんて。



浅ましい自分の気持ちには気づかれたくなくて、ストーブの方を向いたまま。カレと視線を合わすことなく、彼の答えを待っていると


「そりゃ、思うでしょ。」

「え??」

「俺だって男だもん。
ナギの隣に行きたいな~とか、毛布に一緒にくるまりたいな~とか、手を繋ぎたいな~とか、いろいろ思うさ。」


呆れたようにクスクス笑いながら、あっちゃんはストーブに向かって両手を差し出す。



そしてしばらく押し黙った後、私の顔は一度も見ずに


「でも俺の勝手な想いでナギを傷つけたくないから、近づかない。」

「⋯⋯どういうこと??」

「俺はさ??別れるつもりだけど、実質的には風香と切れてないじゃん。オマエの気持ちだって聞いてないだろ??これ以上ナギに近づいたら絶対ヤバイから、お兄ちゃんポジションで我慢してんの。」


冷静な態度は少しも崩さず、あっちゃんは淡々とこんな言葉を口にした。



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