夕凪に映える月
『これ以上近づいたらヤバイ』
初めて触れたあっちゃんの欲に、ドキリとした。
私だってバカじゃない。
年頃の男の子がどういう生理現象を持っているかなんて、恋愛経験の一度もない私でも知っている。
——この隙間が境界線だったんだ。
私とあっちゃんの間にある小さな隙間を見て、初めて気付いた。
友達でいられる、兄妹ごっこを続けられるギリギリのライン。ギリギリの距離感がこの隙間だったんだ⋯⋯。
それを知って少しだけホッとする。
あっちゃんのコトは好きだけど、今そんな関係に陥る勇気なんてどこにもない。
こうして二人でいるだけでドキドキして、こうして二人で話しているだけで満足している私に、オトナの愛の営みはあまりにハードルが高すぎる。
内心ホッとしながらストーブの火に手をかざしていると
「っていうか⋯⋯ナギはどうなの??」
「え??」
「この際だから聞くけどさ。
俺のコト、どう思ってるわけ??」
あっちゃんは私の方を向いたまま、まばたきもせず、まっすぐな視線を私に向ける。
「今、答えを聞く気はなかったし、オマエと今すぐどうこうする気もなかったけどさ。いい機会だから俺も聞きたい。ナギは俺をどう思ってる??お兄ちゃん??友達??それとも⋯⋯男??」