夕凪に映える月

その言葉は呆れるほど自然に口からこぼれ出して、言った自分をひどく驚かせた。


告白って、もっと勇気のいるもので、もっとドラマチックなものだと思ってた。


だって私とあっちゃんは“兄妹ごっこ”を長年続けた関係なわけで、この関係を崩すようなことは私にとっては絶対のタブーだったわけで。


私が告白するということは、風香さんを裏切ることになるわけで⋯⋯。


ただ好きというだけじゃない。
好きの一言がいろんなコトを歪めてしまう、そんな行為が私にとっての告白だった。




あっちゃんが“好き”と言ってくれたから勇気が出たのかと聞かれれば、答えはNOだ。


少しだけ。ほんの少しだけ勇気が出たのは確かかもしれないけれど、理由はそれだけじゃない。




本当に⋯⋯
さっきの言葉は驚くほどスルスルと口からこぼれ出していた。


まるで息をするように、空気を吸うように。ひどく自然に“好き”の一言が口から出ていた。




あっちゃんの熱に私の熱が呼応する。
あぁ、なんだ。
告白ってとても自然なものだったんだ。


『返事はいらない』


そう言った、あっちゃんの気持ちが今になってよくわかる。



答えを求めず
自分に正直に、自分の気持ちを相手に伝える


ただそれだけ。
私とあっちゃんのした“告白”は、ひどく自然で当たり前。言わば自分よがりとも呼べる行為だった。


伝えるだけで、それでよかった。


口からこぼれた“好き”の一言に。その自然さに驚いた。



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