夕凪に映える月
私の気持ちを聞いた瞬間
「マジで??」
「うん。」
「よかった⋯⋯、超うれしい⋯⋯。」
あっちゃんは見たことのないような優しい顔をして、私の手を引き寄せるとギュッっと正面から抱きしめた。
——あ⋯⋯
一瞬にして消えた“兄弟ごっこ”の距離。
消えた、境界線。
カレが『限界だ』と言った小さな隙間、小さな距離がゼロになり、私は彼の胸に抱き寄せられて、そのほのかな温かさに酔いしれる。
あっちゃんの胸元からは少しだけ海の香りがした。
あっちゃんの髪からはお日様のにおいがした。
あんなに憧れて、焦がれて、自分には手が届かないと思っていたあっちゃん。そんなカレに抱きしめられて、私は信じられない気持ちでいっぱいだった。
私だけがそう思っている。
きっとあっちゃんはそんなこと、露ほども思っていないに違いないのに。
そんなことを思っていると
「良かった。
ナギは絶対、虎徹のことが好きなんだと思ってた。」
「え?こっちゃん!?」
「うん。こんなに好きなのは俺だけで、気持ちをかき乱されるのは俺だけで、ナギは俺のコトなんてお兄ちゃん以上に想ってない。そう思ってた。」
あっちゃんは意外な一言を口にする。
そして腕の力を少し弱めると、私をくるんでいた毛布をゆっくりとはぎ取る。
私の頬にそっと手を触れ、私の瞳をまっすぐに見つめると
「ありがとう、ナギ。
気づくのが遅くて⋯⋯ゴメン。」
彼は申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にする。