夕凪に映える月
「俺、ちゃんとするから。
風香とはちゃんと別れて、ちゃんとナギを迎えに行くから。だから⋯⋯少しだけ待っててくれるか??」
今にも泣きそうな顔をして、あっちゃんは私に懇願する。
ズルい。
あっちゃんはズルい。
きっと傍(ハタ)から見たらそうなんだろう。
だってそうでしょ??
こんなの愛人契約みたいなモノじゃない。
保険をかけてるのと同じことでしょ??
私を手に入れたい。
離したくない。
だから全て終わるまで宙ぶらりんのまま待ってて欲しいだなんて、自分勝手にも程がある。
ズルい、あっちゃん。
したたかで、ヒドいあっちゃん。
だけど⋯⋯恋愛は多く惚れた方が負けなんだ。
私だってカレが欲しい。
ちゃんとした約束じゃなくっても、ずるくても、利用されてても、彼を繋ぎ止められるならそれでいい。
そう思う自分に心底驚く。
「⋯⋯うん。わかった。」
あっちゃんの出した悪魔のような契約に、私はためらいもせずに頷いた。
そうすることは風香さんを傷つけること。風香さんを裏切るコト。決して褒められた行動ではないとわかっているのに⋯⋯目の前の誘惑にはどうやっても勝てなかった。
この優しい時間を全部全部自分のモノにしたい。
そんな浅ましい夢を見た。