夕凪に映える月
ゆっくりゆっくりと足音を忍ばせて上る階段。
一歩一歩噛みしめるように登っていくと、お兄ちゃんの部屋に少しずつ近づいていく。
階段を上ってすぐにあるお兄ちゃんの部屋の前にたどり着くと
「あー⋯わかってるって。言わないよ。アツには絶対言わないから心配すんなって。」
部屋の前から、お兄ちゃんの小さな声がポツポツと聞こえ始めた。
アツ
絶対に言わない
その2つのキーワードに驚いて、お兄ちゃんの部屋の扉の前に立ちすくんでいると
「お互い⋯⋯忘れようぜ。
あの夜のことはさ??
うん⋯うん⋯、わかってる、わかってるよ、風香。オマエの気持ちはわかってるって。⋯⋯俺が⋯⋯オマエの弱ってるトコロにつけこんだんだ。風香は何にも悪くないんだから気にする必要ねぇって。」
更にお兄ちゃんは恐ろしい言葉を紡ぐ。
——え??何??
どういうこと⋯⋯!?
考えたくはない。
想像したくないけど、良くない想像だけが頭の中にムクムクと湧いてくる。