夕凪に映える月


——これ以上、聞いちゃいけない!


そう思った私はゆっくりと踵を返して、音が鳴らないように階段をそーっとそーっと降りていく。



とんでもないコトを聞いてしまった。

素直にそう思った。



そして⋯⋯


『なぁんだ。
風香さんも私も同じ穴のムジナだったんじゃない』



そう思って、変に安心してしまった自分に吐き気がした。




ゆっくり階段を下りてリビングに入ると

「凪紗、お茶飲む??」

ママがストロベリーの香りのするフレーバーティーを入れてくれた。



「ありがと、ママ。
いただくね。」



ソファーに座って紅茶を口に運ぶと、甘酸っぱい香りが鼻の奥に広がっていく。



よく⋯⋯さ??
恋は甘酸っぱい、って少女漫画や小説には書いてあるけどアレって、嘘だったんだね。



恋ってもっとキレイで、儚くて、もっともっと柔らかいものだと思ってた。ビー玉みたいにキレイで、濁りのない、美しいものだと。それはそれは美しいものだと信じて疑わなかった。



だけど実際に体感する感情はそんなイイモノではちっともなくて⋯⋯。くだらない嫉妬に、くだらない期待。そんなくだらない感情に振り回される自分が情けなくて、ひどく滑稽に思えて、そんなくだらない自分に気づくたびに泣けてくる。



私はあの海に降る雪を見た日から。
あっちゃんと二人であの雪を見たあの日から、こんな黒い感情に支配されて、ボロボロになっている。



どれくらい苦しめばいいんだろう。
どれくらい罪悪感を感じれば、許されるんだろう。



こんなに苦しい気持ちなら捨ててしまいたいと思うのに、それでも彼を諦められない。



そんな私は本当にどうしようもない。
心底そう思った。

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