夕凪に映える月


その日は冬の冷たい空気が、少しずつ緩んで、柔らかな春の風が吹こうとしている三月の初めの日だった。


春の息吹を感じる、爽やかな日。
風と気温はまだまだ冷たいけれど、日差しはもう春そのものの柔らかさを見せている。


私は……運命の時間がやってくるまで、いつものように学校で授業を受けていた。



温かい日差しの入る窓際の席。
代わる代わる教壇に立つ先生の話なんて。授業なんてなに一つ頭に入らず、私はあっちゃんと風香さんの行方に考えを張り巡らせていた。


あっちゃんから別れを切り出されて、風香さんはどう思うだろう。


彼の口から私の名前を聞いた瞬間、どう思うだろう。

裏切られた、と思うだろうか。
許せない、と憤るだろうか。


どちらにしても、風香さんは私を許してくれないと思う。
一生、許してくれないと思う。


きっと街で会っても「ナギちゃん」と呼びかけてはくれないだろう。

あのとろけるように優しい笑顔はきっともう見られない。



だって風香さんにとって見たら、私は奪略者以上の何物でもないんだもの。

大切な恋人を卑怯な手でかすめ取った、許せないオンナ。それが風香さんの中の私に違いないから。
< 61 / 84 >

この作品をシェア

pagetop