夕凪に映える月
その日は冬の冷たい空気が、少しずつ緩んで、柔らかな春の風が吹こうとしている三月の初めの日だった。
春の息吹を感じる、爽やかな日。
風と気温はまだまだ冷たいけれど、日差しはもう春そのものの柔らかさを見せている。
私は……運命の時間がやってくるまで、いつものように学校で授業を受けていた。
温かい日差しの入る窓際の席。
代わる代わる教壇に立つ先生の話なんて。授業なんてなに一つ頭に入らず、私はあっちゃんと風香さんの行方に考えを張り巡らせていた。
あっちゃんから別れを切り出されて、風香さんはどう思うだろう。
彼の口から私の名前を聞いた瞬間、どう思うだろう。
裏切られた、と思うだろうか。
許せない、と憤るだろうか。
どちらにしても、風香さんは私を許してくれないと思う。
一生、許してくれないと思う。
きっと街で会っても「ナギちゃん」と呼びかけてはくれないだろう。
あのとろけるように優しい笑顔はきっともう見られない。
だって風香さんにとって見たら、私は奪略者以上の何物でもないんだもの。
大切な恋人を卑怯な手でかすめ取った、許せないオンナ。それが風香さんの中の私に違いないから。