夕凪に映える月
悲しい
ツラい
そんな名前のある、ありふれた感情なんて、どこにもなかった。
あったのは胸の奥からドクドクとマグマのように現れる、怒りにも似たドス黒い感情と、深い絶望。
信じたい。
あっちゃんを信じたいのに。
助かると。
絶対に彼は助かると信じたいのに
『なんでだろう。
やっぱり俺、長く生きられない気がする。』
あの夏の日
夕凪に染まる海を見ながらつぶやいた、彼の言葉が邪魔をする。
こんなこと思いたくない。
こんなこと1ミリでも思いたくない。
だけど⋯⋯
あっちゃんはこうなることをわかってたんじゃないかと思えて。あの言葉は、自分に残された時間を予感していたのではないかと思えて、恐ろしかった。
——ホントに消えちゃうかもしれない。
このまま消えて、なくなってしまうかもしれない。
あの言葉の通りに彼はこのまま、消えてしまうのかもしれない。
あの言葉は予感ではなく、現実になる。
その予感が何よりも恐ろしかった。