夕凪に映える月
海を振り返りながら淋しそうに、あのセリフを呟いたカレ。
あの時何を思っていたんだろう。
何を感じていたんだろう。
もしかして⋯⋯
自分がこうなることを予感してたの⋯⋯??
嫌だ⋯⋯!!
いやだよ、あっちゃん!!
そんなの絶対にイヤだ⋯⋯!!!!
「うわぁぁぁーーっ!!!」
大声を上げて、叫ぶように泣きじゃくる私を
「大丈夫、大丈夫よ、凪紗!!
信じなきゃ。今は信じなきゃ、凪紗!!」
ママは自分も泣きながら、ギュッと苦しいくらいに抱きしめる。
──神様、おねがいです。
彼を連れて行かないでください。まだ伝えてないことがあるんです。
伝えきれていないことが山のようにあるんです。
まだ彼に想いの全てを伝えてはいないんです。
ズルい所もあるけれど、あっちゃんは悪いことなんて何一つしてないでしょう?
彼は一生懸命生きてきたんです。
まっすぐに、悩みながら。でも正直であろうと、もがきながらもまっすぐに生きてきた人だと思うんです。
ズルいと思った時もあります。
少しだけ恨んだときもあります。
でも私にとってかけがえのない、大切な大切な人なんです。なくてはならない人なんです。
だからどうか……
どうか彼を私達から奪わないでください。
彼を助けてくれるなら、私の命が半分になってしまってもいいんです。
この先、どんな困難をぶつけられても我慢します。
だから、だから、おねがいです。
彼を助けてください。
彼の命を奪わないでください。
お願いです。神様。
お願いだから、彼を私から奪わないでください……!!!
ママに抱きしめられながら、必死に胸の中で唱えた祈り。
その祈りはあっという間にかき消された。
カバンの中で携帯電話がけたたましい音を立てて鳴り始める。着信者はお兄ちゃん。
嫌な予感。頭の中で鳴り続ける警報を感じながら、震える手で通話ボタンを押すと
「凪紗。
アツが事故にあった。
⋯⋯最後になるかもしれないから、今すぐ病院に来い。」
耳の奥で
無情にも冷静なお兄ちゃんの声が響き渡った。