夕凪に映える月
◇ ◇ ◇ ◇
ママが呼んでくれたタクシーに乗り込んで病院に着くと
「早かったな、凪紗。
こっちだ。着いてこい。」
真っ青な顔したお兄ちゃんが外で待ってくれていた。
タクシーに乗っている間、ずっとずっと神様に祈ってた。
——どうか彼を助けてくれますように
って。
だけど⋯⋯
お兄ちゃんが言った『最後になるかもしれない』という言葉。そして考えることすら恐ろしい、あのあっちゃんの口ぐせが頭の中を支配して、悪い方、悪い方へと考えが進んでた。
大丈夫だと信じよう。
あっちゃんは強い人だもん。
こんなことでいなくなったりしないと信じよう。
信じれば奇跡は起こる。
きっと起こる。
どうあっても楽観的な私はそんなことを考えていたけれど、ICUの前に着いて。ガラスの窓の前で泣きじゃくる風香さんの姿を見て、魂が抜けたように壁に背をもたれさせてソファーに座っているあっちゃんのお父さんを見て、コレはただ事ではないのだと、やっと気づいた。
ゆっくりと
でも足が上手く動かない私の隣でお兄ちゃんは、優しく私の肩を抱く。
そして私の肩をグッと掴むと
「気をしっかり持て。
⋯⋯アツの顔、ちゃんと見てやるんだぞ??」
小さな声でそう言った。