夕凪に映える月
怖かった。
怖い以上に気持ち悪かった。
私のよく知っているあっちゃんとはかけ離れたその姿に言いようのない恐怖を感じて、後ずさると、涙で顔がグチャグチャになった風香さんとフッと目が合う。
鬼のようなその形相
私を睨みつける、その視線が恐ろしくて、思わずビクッと身を震わせると
「⋯⋯のせいよ。」
「え??」
「アツがこんな事故に合ったのは、凪紗ちゃんのせいよ!!!」
風香さんはこんな叫びを私にぶつけて、私の胸ぐらをグッと掴んだ。
「アツはね!!あなたに会うために海辺の部室に行く途中で⋯⋯事故に合ったのよ!!」
「え⋯⋯??」
「いい根性してるわよね。
虎視眈々とチャンスを狙って、私からアツをもぎ取って。内心私のことなんてバカにしてたんでしょう!?」
「そ、そんなこと⋯⋯!!」
言い返そうと必死に風香さんに向き直ると、風香さんは胸倉を掴んだまんま、大きく大きく力任せに私を揺する。
「ふざけないでよ!!
かわいこぶって、カマトトぶって!私からアツを奪って自分だけ幸せになろうとした、凪紗ちゃんが悪いのよ!!」
「ふ、風香さん⋯⋯っ!!」
「凪紗ちゃんが事故に合って苦しめばばよかったのよ!!悪いのは全部全部、凪紗ちゃん、あなたよ!!!!!許さない!絶対に凪紗ちゃんを許さない!!!」
風香さんは見たこともないような鬼の形相で私をドンドン追い詰める。そして私の頬を殴ろうと大きく右手を振りかぶった時
「やめろ、風香!!」
お兄ちゃんが風香さんの右手を優しく掴んだ。