夕凪に映える月
修羅のような顔をした風香さん。穏やかで冷静な表情のお兄ちゃん。
相反する二人をボーゼンとしながら見つめていると
「凪紗。」
突然お兄ちゃんに声をかけられる。
驚いて視線を返すと
「ちょっと俺ら風に当たってくるわ。
そこ、任せたぞ?」
そう言って。
お兄ちゃんは風香さんの肩を抱きながら、ゆっくりとその場を後にした。
——ごめんなさい⋯⋯
去りゆく風香さんの背中を見ながら、私は心の底からそう思った。
『風香さんだっていい気しねぇだろ?』
『オマエの気持ちに気づいてないはずないだろうが。』
そう言った、こっちゃんの言葉を思い出す。
ホントだね、こっちゃん。
その通りだったよ。
思ってるだけなら害がなかったのかもしれない。ただ見てるだけなら、きっとそれでよかったんだ。
でも⋯⋯
結果的に私はあっちゃんを欲しいと思ってしまった。ズルいとわかっていたクセに、気づかないフリしてあっちゃんの誘いに乗った。
ううん。違うね。
自分がそうしたかったんだ。
あっちゃんに促されたからじゃなく、私がそうしたかったんだ。
風香さんから、あっちゃんを奪いたかった。
後ろ指さされても、陰でコソコソ言われても、恨まれても構わないと思った。
あっちゃんが⋯⋯手に入るのなら。