夕凪に映える月
あっちゃん、大好き。
私もね?夕凪の時間が好きだよ?
そんな簡単な言葉が伝えられないことがあるだなんて。
明日言おう、明日伝えようと思っていた一言が言えないことがあるだなんて、想像すら出来なかった。
思っていたよりも命は重くて
思っていたよりも命はずっと儚くて
残された時間は思っていたよりも短くて、彼に何も伝えられなくて、何も言えなくて、何も出来ないまま、時間だけが過ぎていた。
『俺、長く生きられない気がする。』
その言葉をもっと真面目に受け取って。明日があるだなんて思わずに、彼を待たずに、自分の気持ちをワガママに伝えていたなら、こんな後悔をしなくてもすんだのかな。
私はふと、そんなことを思う。
彼の出してくれた小さなシグナルに早く気づいて、早く早く行動しておけば、何か変わったのかな。
あっちゃんは、私と待ち合わせしてた部室のある海辺への行き道で、事故にあった。
言いかえれば、その日、その時間に、その場所にいなければ、あんな事故に合わなくてもよかったかもしれないんだもん……。
風香さんは『アツがこんなことになったのは凪紗ちゃんのせいよ!』と言った。
それはその通りかもしれない。
こうなってしまった今なら、そう思う。