夕凪に映える月
しまった!
そう思った時にはもう遅い。
「それって、どういう意味?」
彼は鳩が豆鉄砲を食らったような驚いた顔をして私に尋ねる。
「ほ、ほら!
私たちって兄弟みたいに一緒にいるじゃない?だから、あっちゃんが急にいなくなっちゃったりしたら、悲しくて淋しくて耐えられそうにないっていうか……」
あぁ、何言ってんの、私。
焦れば焦るほど話がおかしな方向に傾き始める。
「ほ、ほら!!
風香さんも悲しむだろうけど、私の方がもっと悲しくなる…っていうか…!!」
ダメだ。
話せば話すほど、どツボにハマっていく。
ワタワタしながら
キョドキョドしながら
何かうまい言い訳みたいなものを探すけど、そんなの私の小さな脳みその中にはどこにもなくて。
ーーだめだ。
このままだと墓穴を掘って終わっちゃう!
キョトンとした顔のまま私を見つめるあっちゃんに覚悟を決めてハアとため息を吐くと
「あっちゃんがいなくなったら、私が困る。」
「……それ、どういう意味で捉えればいいの?」
「そのまんま…じゃない?
あっちゃんは私の大事なお兄ちゃんだから。急にいなくなったりしたら、悲しいよ。」
夕闇に染まる帰り道で。
彼が好きだと言った海を背に、私は彼に一番の嘘をついた。