夕凪に映える月
季節は春。
5月も終わりに近づき、夏の暑さはもうすぐそこまで来ている。
ヨット部の活動も体育館から海辺の部室へと移り、部員たちはみんな海にボートを浮かべて、風を掴まえてそれぞれで楽しんでいる。
波間が太陽に照らされてキラキラ光る。
水しぶきはまるでダイヤモンドのように輝いて、私の瞳をキラキラと輝かせる。
おにいちゃんとあっちゃんがいた場所。
あっちゃんが何よりも好きだと言ったこの場所。
カレがもう一度この光景を見るのはいつのことになるのだろう。
この海に訪れる、あの夕凪の時間を見るのはいつのことになるのだろう。
そんなことを思いながら、私は部長に断りを入れて、自分の自転車にまたがって
「ごめんねー!!先に帰るねーーー!!」
海の上に浮かぶ部員たちに声をかける。
誰よりも沖にいるこっちゃんが大きく手を振って
「凪紗ーーー!!
寝てるばっかじゃなくて早く起きろー!!ってアツ先輩に言っといてーー!!!」
こんな言葉を大きな声で叫びだす。
そして最後にこんな冗談を口にした。
「アツ先輩ー!!
早くしねぇと俺が凪紗のコトもらっちゃうかんなーーー!!!」