夕凪に映える月
居心地が悪くて
お兄ちゃんだなんて思ってもないくせに、あっちゃんにこんな嘘をついて。
そんな弱虫な自分に呆れてしまって、自己嫌悪に陥って。
彼の綺麗でまっすぐな視線を受け取ることができずに、斜め45度にうつむいて、下唇を噛んでいると
「……だよな。」
彼は悲しそうにクスッと笑うと、小さく小さく呟いた。
ーーえ…??
驚いて彼の顔を見上げると
あっちゃんはニイッと笑って、私の髪をガシャガシャとかき混ぜ始める。
「ナギは俺のことが大好きだもんなぁ〜!!」
「ちょっ!やめてよ!」
「ブラコンめ!!」
もう!
こんなに力いっぱい髪をグシャグシャにしなくても!!
ゲラゲラ笑うあっちゃんに、ジトーーっとした怨念をぶつけると
「かわいい妹のナギのために、お兄ちゃん、長生きしてやるから安心しろ。」
そう言って
あっちゃんは私の髪から手を外すと、紺色に染まりゆく、穏やかな海を振り返る。