三十路で初恋、仕切り直します。
「この前も思ったけど」
久々に自分の家の天井板の、木目の模様を見るともなしにぼんやり眺めていると、同じく隣で天井を見ていただろう法資が口を開いた。
「おまえって意外と体力あるよな」
時刻はもうすぐ午前五時になろうかというあたりで、雨戸も閉めていない窓の外では新聞配達のバイクのエンジン音がしていた。
部屋はエアコンで温められていたけれど、熱効率の悪い古い家はそれでもどこかうすら寒い。一度目が終わったときに法資が泰菜の寝室から引っ張り出して来た毛布に、二人寄り添ってもぐっていた。
結局あれからいつも生活しているこの居間で、時間を掛けて何度も抱き合ってしまった。最中は夢中でも、終わった後には寝室にたどり着くことが出来ないままここで事に至ってしまったことに、ひどい羞恥が募っていく。
我を忘れるくらい、こんなに誰かと濃く深く繋がることが出来るなんて、今まで知りもしなかった。
あまりにも的確に快感を引き出していく手馴れた法資の手技には、「今まで法資は何人の女の子たちとこういうことをしてきたんだろう」という痛いくらいの嫉妬が掻き立てられたけれど、そんな嫉みに苛まされているのも束の間のことだった。
法資に恥ずかしいことを求められたり、受け入れるためにいやらしいポーズを取らされたり。法資にリードされるがままに体を明け渡していくうちに、余計なことなど何も考えられなくなっていった。
自分抱いた妬心も苦さも羞恥心も、すべては熱の篭った法資の行為で理性と一緒にどろどろに溶かされてしまった。今裸の体に満ちているのは、ひどく甘ったるい充足感だけだった。
「……体力なんてない」
体は重くけだるかったけれど、手加減されずに本気になってもらえたことが恥ずかしくも嬉しかった。けれど照れのあまりついつっけんどんな言い方になってしまう。
「もうへとへとだよ」
「知ってる、ってか見りゃ分かる。正直、泰菜がここまでついてこられるとは思わなかった」
満足そうな法資の笑い声が、泰菜のやわらかい耳を擽る。
「意外と健気でもあるよな。必死に俺についてこようとするおまえはかなり可愛いかった」
「……どすけべ」
「褒めてるんだよ。やっぱ相性がいいんだろな。おまえだってさんざん」
「もうっやめてよっ」
法資がとんでもないことを言い出しそうだったから、慌てて遮った。
気分が盛り上がってしまっていた最中はともかく、素面に戻ってからそういうこと言われるのはなんだかとてもいたたまれなかった。
体の相性だとかそういうことでばかり褒めてくるなと心の中で怒りをぶつけて睨んでやると、横に寝転ぶ法資は何が楽しいのか上機嫌に笑いだした。
どうやら泰菜が嫌がっているのを承知の上で話のネタにしてきているらしい。自分はなんだか気恥ずかしくて堪らないというのに、余裕のある態度の法資が憎らしく思えてくる。