三十路で初恋、仕切り直します。

「遅かったな」


庭先に青いスポーツカーが停められているのを見て、妙にほっとしながら明かりの灯った自宅に入ると、法資が玄関先で出迎えてくれた。

その姿を見て、思わず噴出してしまう。


「……法資、それおかしい……」


片耳リボンが特徴の某子猫ちゃんキャラのエプロンをしていた。ピンクの地にかわいいキャラクターが散りばめられたそれは、端正な顔立ちの30男には凶悪的なまでに似合わない。

「ちょっと台所使わせて貰ってたんだよ」
「……それは見れば分かるけどさ」

台所の引き出しにしまってあったものの中から、いちばん手前にあった、いちばんファンシーなエプロンを何も考えずに使ったようだ。普段身なりに気を遣っているくせに、家の中では油断してこんな珍妙な格好になっているところがなんだかいとおしい。

笑われた法資は憮然とした顔で「さっさと入れ」と言ってくる。


「うそ……お夕飯?」


促されて居間に入ると、卓袱台の上には夕餉の支度がしてあった。

大皿に盛られているのはマーボー豆腐、それにもやしの炒め物、たっぷりとごまダレがかかった棒々鶏もあった。炊飯器にはご飯が炊けていて、傍らに置かれた小鍋の中には温められたばかりの味噌汁まである。


「これみんな用意してくれたの?」


驚く泰菜を見て、法資は満足そうな顔をする。

子供のとき祖父の武弘に仕込まれて、法資も何度かご飯を炊いたりお味噌汁を作ったことはあったけれど、こんなにいろんなおかずを拵えることが出来るようになっていたとは知らなかった。


「ありがとう、どれもおいしそう!……すごいな法資って本当になんでも出来るのね」


その言葉に法資が苦笑する。


「お料理好きだったの?」
「……ってわけじゃなくて。詫びみたなもんだよ」
「お詫び?」

「仕事あるのに、がっついておまえ徹夜で付き合わせたからな。今日は手を出さないでやるからさっさと食って早く休め」
「うんそうするね、実は今日、仕事中に何度も寝そうになっちゃたんだ」


法資の気遣いをうれしく思いながら洗面所に向かうその背に、「……おまえな、すこしは残念そうな顔しろよ」と聞こえよがしな法資の声がした。





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