三十路で初恋、仕切り直します。
航空チケット代も馬鹿にならないから結婚資金にとっておけとか、わざわざ泰菜がこちらへ来なくても自分が帰国すれば渡航費は会社が負担してくれるからとか、どうせこちらに来られても仕事が忙しすぎて相手をしてやれないだとか、もっともらしい理由を立て並べると、ついには泰菜の方から『それでもかまわないから』と言ってきた。
泰菜は遠慮がちでひどい恥ずかしがりだから、こちらから言うように仕向けない限りなかなか好意や自分の望みを口にしてくれない。
だから目を潤ませて、本気であることがひと目でわかるような顔で『どうしても会いに行きたい』と懇願されて、くらりと酩酊感を覚えるくらいに胸が甘く痺れた。それでも頷きたいのを堪えて再三の泰菜の申し出を却下すると、泰菜は無理に笑顔を作って、
『そっか。法資は平気なんだね。……それともわたしが法資のところへ行ったら何か都合の悪いことでもあるの?』
と責めるように言って回線を切った。
それから数日、メールも電話も途絶えていた。