三十路で初恋、仕切り直します。
(3)敗者の特権
『……法資、怒ってる……?』
一方的に回線を切って、以後こちらがメールを送ってもスカイプを繋げようとしていてもこの3日あまり無視し続けていたのは泰菜だった。
怒るどころかそれほど自分の言動が泰菜の心を揺り動かしているのかと思えば愉快な気持ちになってくるほどだったが、そんなことを知る由もない泰菜は自分が無視を決め込んだことで機嫌を損ねられてしまったと思い込んでいるようで謝罪を重ねてくる。
『法資が忙しいこと分かってるつもりだったのに、無理言ってごめん。今回はわたしが大人気ありませんでした。……許してもらえませんか?』
「本当にな」
泰菜が悪いなどとは少しも思っていないけれど、わざと尊大に言っていた。
「ガキじゃあるまいし、いつまでもメールも着信も無視とかって勘弁しろよ。こっちだっていつも連絡取れるとは限らねぇのに」
『……ごめんなさい。でも。だって……』
言いかけて言葉を飲み込む。こちらが思ってる以上に「来なくていい」と言われたことが堪えているようだ。
「泰菜、明後日って何の日だ」
唐突に話を振ってやると、泰菜は一瞬思考が止ったように固まった後、おずおずと『……バレンタイン?』と答える。
「こっちじゃチョコレートのやり取りする習慣なんてないからな。忘れるな、そういうイベントごと」
何を言われようとしているのか悟ったのか、泰菜は気まずそうに目を逸らしてくる。
「そういや、おまえがこの前電話切る前に食ってたものはなんだったんだろうな」