三十路で初恋、仕切り直します。
喧嘩別れのようにテレビ電話を一方的に切られる直前。モニターの中で、泰菜はきれいにラッピングされた包みを急に手元に持ってきて、びりびり乱暴に破って封を開け、まるで当てつけるように自分の前でその中身をむさぼりだしたのだった。
『……その件もごめんなさい。あれはチョコレートです。法資にあげるつもりだったチョコ、あのとき全部食べちゃいました』
「ひでーな。そんなにうまそうなやつだったのか?」
『じゃなくて!……丁度そろそろバレンタインだし、会いに行ったとき直接渡そうと思ってたの。……なのに来なくていいなんていうから』
「来ないほうがいいと思ってるんだから仕方ないだろ」
モニターの中で、怒りなのか悲しさなのかを堪えようとするかのように、泰菜が唇をきゅっと真一文字に引き結ぶ。もうすこしで泣きそうな、でもそれを耐えようとするかのような表情は、下世話な話、ひどくそそられる。
声を聞くだけよりは顔も見られたほうがいいと思ってテレビ電話なんかを利用しているが、泰菜を抱きたい気分になったときは、触れることも出来ないのになまじ顔が見られるほうがかえってつらかった。
空港で別れたほんの3ヵ月ほど前は後ろ髪を引かれながらもどうにか振りきることが出来たけれど、泰菜にも泰菜の体にも飢えきっている今は、あのときのように泰菜の手を離せる自信などない。
負けっぱなしだな、と思う。