三十路で初恋、仕切り直します。
それなりに恋愛経験はある方だが、恋人より優位に立つというスタンスに拘らなくなるなんて初めてのことだった。泰菜にだったら負けっぱなしでかまわないと思っている自分は、どうも自分で思う以上に彼女に惚れているらしい。
泰菜になんて興味がないと嘯き頑なに自分の中にある感情から目を逸らしておきながら、泰菜のことで苛々してばかりだった高校時代の自分の肩を叩いて「認めてしまえば楽になるぞ」と教えてやりたい。
好意を打ち明けてみるのは、おまえが思っているような惨めなことではなく、存外悪くないことだと。
『……どうしたの?』
無意識に笑っていたらしく、泰菜が不思議そうに訊いてくる。
意外に慎重ですぐには入籍してくれなさそうな泰菜を、どうすれば早くこちらに連れてこられるかなどと考えながら、そんな心とは裏腹に、
「俺が食うはずだったチョコを全部おまえが食っちまったんだったら、おまえは責任とってチョコの代わりに大人しく俺に食われるべきだよな、とか考えてた」
と言うと間髪入れずに、
『そんなスケベなおじさんみたいなこと言わないでよっ!』
と怒られた。