三十路で初恋、仕切り直します。
不機嫌と16歳と彼女 (高校時代/法資視点)
◇ ◆ ◇
「すげぇ、また当たってるし!!」
昼時の食堂。
大勢の生徒で賑わうその片隅で、ひときわ大きな歓声が上がる。声の主は同じクラスの藤井。よく津田とつるんでいる男だ。
「ホント。まじすごくね?百発百中じゃんっ」
そう言ったのは同じく津田の友人の原。巨漢に似合いの無駄に大きな声が食堂に響いている。ムードメーカーと言えば聞こえがいいが、津田も津田の周りにいる連中も、とにかくいつも馬鹿みたいにたのしげで、騒がしいことこの上ない。
---------目障りな奴らだな。
内心で吐き捨てて、たいして美味くもない定食の唐揚げに再び箸をつけかけたとき。
「相原ちゃん、すげー特技だよなっ」
聞こえてきたその名前に一瞬箸の動きを止めてしまう。
そんな自分に気付いたわけでもなかろうに、目の前に座って一緒に昼食を取っていた飯嶋が、声のした背後に視線を向けてぼそっと口を開いた。
「……あー、やっぱ津田たちかよ。相変わらずうっせぇなあいつら」
飯嶋は忌々しそうに吐き捨てて顔を顰める。
同じ特進科でクラスメイトの津田俊樹は、明るくて人当たりも好く教師や女子の受けが抜群だ。だがその絵に描いたような爽やかな優等生ぶりを僻み半分に煙たく思っている男は多い。飯嶋もその一人だった。
「ごちゃごちゃ騒ぎやがって。あいつらどっか消えりゃいいのに」
いかにも気に食わなそうに言う飯嶋に心の中だけで同意していると、飯嶋の隣に座る青木が津田たちのいるテーブルの方を見て、意外そうな顔をする。
「あれ。津田のやつ、今日はおでこちゃんと一緒なんだな」
『おでこちゃん』と呼ばれているのは、同学年で普通科に在籍する、自分の幼馴染でもある相原泰菜のことだ。
美人でも不細工でもない、どちらかといえば地味な部類の女子で、平均的なその顔立ちの中で唯一印象に残るのがつるりとしたひろいおでこだ。見る人によっては「かわいい」と評されることもあったが、青木のようにからかい交じりに陰で『おでこちゃん』呼ばわりする者もいた。
その『おでこちゃん』自身は特に人目を惹くような存在ではなかったけれど、モテ男ポジションにいる津田と付き合ったことでじわじわ学校内で知名度を上げていた。