三十路で初恋、仕切り直します。

「マジ?津田とおでこちゃんって別れたって聞かなかった?」


青木の言葉に、その隣に座っていた石野が反応する。石野の言葉に他の連中も頷きだす。


「聞いた、聞いた。たしか里奈もそんなこと言ってた」
「けど間違いじゃん?一緒にメシ食ってるし、普通にめっちゃ仲良さそうじゃね?」
「けど本人の津田も言ってたじゃん、クラスの女子に聞かれたときさ『別れた』って」


そう、文化祭の後泰菜と津田が付き合いだしたのも、二人が傍から見ていても分かるくらい仲のいいカップルだということも、校内ではそれなりに話題になったことだった。そしてそんな二人が先月別れたことも、あっという間に噂で知れ渡った。

けれどふたりは別れた後もたびたび仲良さそうに話している姿や、放課後に二人連れ立って出掛ける姿を目撃されている。噂で聞いた別れた理由というのも、『仲が良すぎるから』という意味不明なものだった。

だから別れた今も、二人は周囲から妙な注目を集めていた。


「なあ桃木」


青木に伺うような声で呼びかけられ、次に言われる台詞が容易に想像出来ただけにうんざりした気分になった。


「桃木はなんかおでこちゃんから聞いてる?」
「あいつらって復活してたの?」
「つか、そもそも別れたとかデマだったとか?」


いちいち予想通りの質問に舌打ちしたくなる。意外と噂好きなところがある青木や飯嶋たちは、こちらの顔色を窺いつつも無遠慮に訊いてくる。どこか面白がっているようなその態度がたまらなく不快だった。


「………知らねぇし、そんなんどうでもいいし」


ごはんの残りをかけこむと、友人たちが食べ終わるのも待たずに立ち上がった。

食器をカウンターに返しがてら、ちらりとだけ見るともなしに声のした方向へ視線を向けてみる。自分が座っていた席から斜めにすこし離れた場所に、津田たちが席を陣取っていた。

そのテーブルの上には売店で買ってきたばかりと思われる同じ銘柄のペットボトルが人数分並んでいて、そのどれもにおまけのマスコットが封入されたパッケージが引っ掛けられていた。

その炭酸飲料のおまけは、社会現象とまでいわれるくらい大ヒットした、オンラインゲームのキャラクターミニフィギュアだ。飯嶋も熱心に集めていたから覚えていた。

どうやら津田たちの中にもフィギアを収集している奴がいるらしい。それで納得した。なぜあの席に泰菜がいるのか。



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