三十路で初恋、仕切り直します。
泰菜にはとても地味な特技があった。
飲料のおまけのような中身の見えないパッケージを指で探って形状を確認し、中にどのデザインのものが入っているのかほぼ正確に当てることが出来るというものだ。
中学生のときも、SF映画のキャラクターのおまけをコンプリートしたいというクラスメイトに頼み込まれ、スーパーの飲料水コーナーで、パッケージ越しの感触だけでクラスメイトが欲しがっていたキャラクターのおまけをいくつも探し当てた。
その特技を知っていた誰かが(……おそらく津田だろうが……)、泰菜に欲しいフィギュアを当ててくれと頼んだのだろう。
「わ。また当たってるし。ずっと欲しかったんだよね、エイダのミニスカバージョン」
「こっちも俺の欲しかったやつだ。相原ちゃん、まじすげー。俺自分で探すとダブりまくるから助かるわ」
泰菜を真ん中に据え置いて、津田たちは大盛り上がりだった。
「そっか。みんなちゃんと欲しかったやつだったんだ。よかったあ……」
「あはは、たーちゃんってば、そんなほっとした顔しちゃって。大丈夫、万が一ハズれても文句なんて言わせないからさ。俺が責任持ってコイツらからたーちゃんお守りしますって!」
耳障りな津田の声が、ひときわ大きく聞こえてくる。
---------何が責任だよ。
馬鹿じゃねぇのとトレイを返しながら胸中で呟く。
開けたパッケージからまた希望の品が出てきたらしく、津田たちのテーブルからまたひときわやかましい歓声があがる。笑いが濃くなるその中心で、泰菜が恐縮するようにひかえめに笑っている。笑いながら津田に話しかけ、津田は泰菜に顔を寄せて返事をしている。
親密そうな距離感にあることが、ごく自然に見えた。
誰がどう見ても、津田と泰菜は普通に仲のいい彼氏彼女にしか見えない。やっぱり別れたというのはデマだったのかと思いながら視線を外そうとしたそのとき。
ややうつむきがちに原や藤井の話に相槌を打っていた泰菜が顔を上げた。何もない宙で、まるでパズルのピースが嵌るように自分と泰菜の視線がかちりと合わさる。
その瞬間から、まるでコマ送りにしたかのように泰菜の表情が変化していく様がつぶさに見て取れた。