三十路で初恋、仕切り直します。
はじめはすこし驚いたような。それからやや遠慮がちになり、それでも逸らされない目には自分に対して何か物言いたげに訴えてくるような気色がある。
自分を見つめてくる泰菜の顔を冷静に検分する。
相変わらず子供っぽいひろいおでこに低い鼻。凡庸な顔立ちだ。決して美人の類などではない。ひとの心をざわつかせるような、そんな磁力などどこにも見当たらない。
そういえばこんな顔のやつだったかと、久々にまともに泰菜の顔を見て無感動に思う。
褒められるのはニキビのないつるりとした肌くらいで、あと強いてあげるなら、小粒だけど黒々とした目くらいだろうか。いつも潤んだように見えるその目が、今は戸惑うように自分を見つめ返してくる。
泰菜から一瞬視線を外しかけ。けれどなぜ自分の方から目を逸らさなければいけないのかと、唐突に怒りのような感情が噴き出してくる。
疚しいこともないのに、なんで負け犬のように自分から目を伏せなければならないのか。
---------勝手に視線合わせてきたのはおまえなんだから、おまえの方がさっさと目を逸らせ。
苛立ち混じりに、でもそんな感情の荒れなど悟らせないように、あくまで淡々と冷ややかにも見えるだろう目で泰菜を見続ける。
泰菜はまるで供されるものをすべて受け取ろうとでもいうかのように、ただ黙って自分に視線を返してくる。
------------この目だ。
冷静でいようとすればするほど、泰菜のこの目に苛立つ自分を感じる。無遠慮に人の心を見透かそうとするかのようなこの目。
いくら自分が冷静を装うとしても、泰菜にはすべて分かっているのではないのかとときおり焦燥にも似た苛立ちを募らせてしまう。
女子から注目されることなど慣れているのに、泰菜に見詰められているときにだけ、いつも胸に烈風が吹き荒れるような、無性に傷つけてやりたくなるような、自分でも手に負えない苛立ちがこみ上げてくる。
-----------とっととおまえから目を逸らせよ。
そんな苛立ちを視線に込めて半ば泰菜を睨みつけるように見ていると。不意に自分の右腕に、なにかやわらかいものが勢い良く絡みついてきた。
「法資くん、みいつけたっ」
「………美河先輩?」