三十路で初恋、仕切り直します。
腕に絡みついてきたのは、もうすぐ卒業を控えた三年生で、在学中常に『学校一の美女』と称えられ、男子ばかりでなく女子からも羨望の的だった美河寧々だった。ほんの一時だけ付き合った、元カノでもある。
「もう、法資くん教室にもいないし探したんだからね」
そう言って見上げてくる美河は、自分がいちばん魅力的に見えることを計算し尽した角度で、上目遣いに可愛らしく睨んでくる。
ただ立っているだけでも絵になってしまうくらい顔立ちもスタイルも魅力的であるというのに、女であることを効果的にアピールした媚態じみた美河の表情は、たいていの男なら見せられただけで屈服し、虜になってしまうだろう。
「……美河先輩、なんでこんなとこいるんですか」
「なんでって、久し振りに会えたのに法資くんは随分冷たいな。今日は委員の仕事。卒業式の準備、手伝いに来てたのっ」
これも計算だろうが、清楚な顔立ちをぷぅっとふくれ面にする表情までもが可愛らしい。
すでに三年生は卒業式までは自由登校になっていた。美河とは二学期が終わるまでは度々顔を合わせていたけれど、年が明けてからはまだ会っていなかった。
「先輩が卒業委員なんて意外ですね。お疲れ様です」
「ありがとう。結構面倒なのよね。毎年推薦組に割り当てられるって知らなかったな」
「へえ。俺も知らなかった」
「でも自分の卒業式だからね。先生へのサプライズとか考えるのは楽しいかな。今日もみんなに声掛けて、9時から登校してたの」
「先輩って、意外にそういうとこ真面目ですよね」
「……ふふ、でもホントは今日学校に来たのはそのためだけじゃないんだけどね?」
勿体ぶって言った後、美河はやわらかい体を押し付けながら耳元でこっそり囁いてきた。
「法資くん、久し振りにエッチしようよ」
思わず泰菜のいる方へ視線を向けると、泰菜はとっくに視線を外してまた津田たちと談笑していた。
「…………先輩、何盛ってんですか」
「今日ママがフラのお稽古の発表会なの。打ち上げで帰ってくるの遅いからウチおいでよ」
「いいんですか?梶先生、こっち見てますけど」
その名を口にすると、美河が怖いくらい綺麗な笑みを浮かべる。どうやらひどい失言だったようだ。それとなく話題を逸らしてみる。
「ってか俺、一応今付き合ってる相手いるんですけど」
「それってあの子のこと?」