三十路で初恋、仕切り直します。

美河が指差す方向を目で辿ると、自分たちから少し離れた場所に怒ったような、それでいて今にも泣きそうな顔をした女子生徒がこちらをじっと見て立ち尽くしていた。

先週告られて付き合いだした、小野寺という同学年の女子だった。

そうだと頷くと、美河は何か面白がるようにわざとらしくベタベタ絡んでくる。しかも小野寺を挑発するようにちらちら彼女の方を見ながら。


「先輩。俺付き合ってる奴がいるときは他には手を出さない主義なんですけど」
「大丈夫。どうせもうすぐ別れることになるから。ほら」


先輩が手を握ってきて、ふざけるみたいに手の甲にちゅっちゅっとキスを落とし続けていると、視線の先で小野寺が顔を真っ赤にして踵を返して走り去っていく。


「ね?この分だとあのコとは今日中にお別れコースでしょ?だからバイバイしたら心置きなくエッチしに来てよ?」
「……自分の都合で勝手に引き裂かないでくれますか」
「馬鹿ね。彼女を『一応』呼ばわりして、しかも追いかけもしないようなやつが何中途半端に良識ぶったこと言ってるの?」


笑い飛ばされてそれもそうかと思う。

小野寺はそこそこの美人で、付き合ったその日に即行で誘ってきてヤらせてくれたけれど、小野寺とのセックスに特に目新しいことはなかったし、今ここで失うことになっても特に惜しいという気持ちも沸いてこなかった。


どこにでもいて、代わりなんていくらでもいるような、そんな相手。


美河の身勝手な言い分に乗せられるのは少々癪だったけれど、未練も執着も沸かない相手に、わざわざ弁明しに行くのも面倒で。



その日の放課後、小野寺にひっ叩かれ、盛大に片頬を腫らしたまま先輩の家に行っていた。





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