三十路で初恋、仕切り直します。
◇ ◆ ◇
「あー!すっきりしたぁ」
ベッドの上で、胸も身体も丸見えになることにお構いもせずに美河が大きく伸びをする。あまりに情緒のないその言葉と態度に思わず笑ってしまう。
「なんなんすか、その言い様」
「だってすっきりするでしょ?セックスって、ようは排泄作業じゃない。終わると中でぐちゃぐちゃしてたものがすっきり洗い流せた気分」
初めてしたときは顔を強張らせて声も出せずにいた人とは思えない、さばけた言い方だ。もっとも初めてのとき、緊張してろくなやり方が出来なかったのは自分も同じだが。
「何思い出してるの?」
訊かれたから隠しもせず「初めてのときのこと」と言うと、美河は「あのときはさんざんだったよね」と笑い出す。
お互いに初めての彼氏彼女でしかも未経験同士だった。ふたりとも照れや恥ずかしさよりもなんとか無事に初めてのセックスをやり遂げようという緊張の方が大きかったように思う。
回数を重ねる度に腹の中を焼き尽くすような強烈な快感に夢中になったけれど、それも最初から何度目かまでのことだった。
次第に行為に慣れてくると何故か潮が引いていくようにどんどん冷静にことに及ぶようになっていく自分に気付き、頭の芯から痺れるような快楽を感じているにも係わらず、セックスするごとに何かが急速に冷えていくのを感じていた。
それは美河も同じようで、結局付き合って3ヵ月もしないうちに別れることになった。
「……たしかに最初のときは散々でしたね。すみません」
「余裕なかったのはお互いさまでしょ。それに今は好きだよ、法資くんとのエッチ。勝手が分かってるから安心する」
自分のセックスを「無難」だと位置づけられていることに少々複雑な気もするけれど、自分も美河の言うことはわかる気がした。
自分を良く見せようとは思わない、気楽なセックス。それが自分と美河とのそれだった。恋人同士の甘い雰囲気というより、同属同士が肩を寄せ合っているような、少しのみじめさが同居した安心感があった。
誘われるとつい拒みきれずに、満たされるわけでもないのに寝てしまう。別れた後もそんなセックスフレンドのような関係が続くともなしに続いている。お互いを縛ろうとしない生温い居心地のよさを共有出来るがゆえなのだろう。
「ねえ。来週の卒業式もさ、打ち上げ抜け出すから夜合流しよ。で、久し振りにいっしょにラブホ行かない?ほら、前に行った天蓋付きのお姫様のベッドみたいなのがあるホテル」
自分の前には誰とも付き合ったことがなかった、清純可憐な存在として学校中の男子の憧れの的だった人なのに。そんな人の発言とは到底思えない擦れた誘い方だ。