三十路で初恋、仕切り直します。

「おまたせ。これくらいでいいかな?」

ビニール袋いっぱいにみかんを詰めて、泰菜が玄関に戻ってきた。ちいさな子供みたいな無邪気な顔して笑うくせに、意外に尻の軽かった女。


-----------だったらいっそ、自分の相手もしてもらうか。


この場で、またあのときのように強引に唇を奪って、おあつらえ向きにこんな脱がしやすいものを着てるのだからこの場で裸に剥いて犯してみればいいじゃないか。

自分よりずっと小柄で非力な泰菜に抵抗されたところで、力で屈服させるなんて容易いはずだ。このちいさな体の中に津田のものを受け入れたとき、どんな顔をしていたのか自分も見せてもらえばいい。



「……法資?」

みかんの入った袋を提げた泰菜が、顔を覗き込むように訊いてくる。

「どうしたの?ぼおっとして」

見上げてくる泰菜の幼い印象の目も額もなにもかもが以前とまるで変わらない。津田のものになっても、別れた後もなにも変わらない。驚くほど泰菜はなにも変わらないのに。



なんでこんなふうになってしまったのだろう。

いつからどこまで行っても永遠に交わることのない、平行線のような関係になってしまったのだろう。

なんで自分たちの間にあるものだけが変わってしまったのだろう。



「………戸締りしろよ」

そういって何かを言いかけた泰菜に背を向けた。



やっぱり自分は頭がおかしい。意味の分からない衝動で泰菜をズタズタにしてしまいそうだった。



泰菜を視界に入れるたび、泰菜に見詰められるたび腹の底が疼いて焼きつきそうになるのは、自分がひとより欲の強い男だからなのだと思っていた。

性欲が有り余ってるから、泰菜ですら抱きたくなるんだとそう思い込もうとしていた。

なのにいくら他所で発散してきても一向に納まらない。むしろ余計に渇いていくようだ。ますます泰菜の体を引き寄せて無理にでも奪ってみたくなる。



----------俺はいつか、おまえのことズタズタにしないと気が済まなくなりそうだ。



泰菜が持たせた蜜柑を手に提げて、どこまでも暗い夜道をひとり家路についた。






(end)





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