三十路で初恋、仕切り直します。

本当に仲が良かったんだよなぁと、別れる数ヶ月前の自分の誕生日を思い出す。


「泰菜のために奮発した」と言っていた彼が贈ってくれたのはティファニーのペンダント。実は若い娘の方にはそれよりもっと高いカルティエのアクセサリーを贈っていたと別れた後に知った。

涙をぼろぼろこぼして感激していた自分なんて、とんでもなくちょろい相手だったんだろうなと自虐的な物思いに耽っていると、



「おまえは昔からそうだよ」



法資が、目頭を押さえながら溜息をついた。


「すぐそうやって情にほだされる。兄貴のことが好きだ好きだとわめいていたくせに、津田なんかに告られたときもあっさりほだされやがったしな」


津田というのは泰菜の初彼で、高校一年のときに英達に玉砕した後に告白されて半年ぐらい付き合った相手だ。


「どうせ津田のあともいろんな男にほだされまくって振られまくってたんだろ」


なんでここで大昔の初彼のことまで蒸し返されなきゃいけないんだろうと些かむっとして、「ほだされまくったのは法資も一緒でしょ」と言い返す。


「知ってるんだからね、高校のとき告ってきた綺麗どころの女子とか先生とか、片っ端から食いまくってたの」
「はぁ?何言ってんだおまえ……」
「目が泳いでるわよ。浮気がバレた亭主じゃあるまいし」
「……誰が亭主だ」


珍しく口を濁す法資に、してやったりの気分で言ってやる。


「今更わたしに格好つけたって意味ないでしょ。隠さなくたって法資の悪行はだいたい英達にいちゃんから聞いて知ってるんだから」
「……あのクソ兄貴」


法資はこの場にいない実の兄を呪い殺すような声を搾り出す。


「どうせ今もより取り見取り、きれいな女の子たちといろいろ遊んでいるんでしょ?モテモテの法資にはついついほだされちゃうわたしの気持ちなんてわからないわよ」
「あのな。なんだよそのモテモテって。……しがない居酒屋の跡継ぎに選べるほど嫁の来てがあると思うのか?」

「思うわよ。なんだかんだ、法資昔よりずっといい顔してるもん」


言ってから、自分が大分酔っていることに気付く。素面だったらわざわざ法資を図に載らせるようなことを言うわけがない。


「昔はさ、鼻っ柱が高いだけのイヤな奴だったけど」
「俺の場合、ちゃんとそのプライドに見合った頭脳も運動神経も持ち合わせていた。ついでにルックスもな」

「……ああ。そうですね。いっつもそう自信満々で負けず嫌いで口が悪くて意地悪なことばっか言ってて、わたしのことなんて馬鹿扱いで……」



でも法資は人一倍努力家だった。



サッカー部にいた中学生の頃は、部内で自分より上手い奴がいるのは許せないといって毎朝朝練の前に自主練をしていた。

高校では模試の結果が気に食わないと言って受験生でもないうちから寝る間を惜しんで勉強し、全国でも上位の成績をキープしていた。



「でもやっぱ、あの頃よりいい顔してる。法資、仕事楽しいんでしょ?なんか仕事が充実してる男の余裕みたいなの?それが顔に出てるのが見ててわかるよ」



上手くは言えないが、学生のときにはなかった感情の安定した落ち着きというか貫禄と言うか、そういうものが備わっているように見えた。





< 16 / 153 >

この作品をシェア

pagetop