三十路で初恋、仕切り直します。
「やっぱ恋愛に現抜かしてる男より、男は仕事に現抜かしててくれてないとかっこよくないよね。だから今の法資は立派ないい男だよ……何?」
「お前相当酔ってんな」
まだ中身の残っていたグラス取り上げられてしまう。
「返してよ、そんな酔ってないもーん」
「テンションおかしいし、微妙に舌回ってねぇんだよ。どこだ?親父さんのいるマンションに送って行きゃいいのか?」
「やだ。まだ飲むってば!ってか幼な妻といちゃいちゃしてるお父さんとこに何が悲しくて邪魔しに行かなきゃいけないのよ」
「じゃあどこに送ればいんだよ。こっちで一泊すんだろ。ホテルでも取ってあんのか」
「ないよー。漫喫にでも泊まる予定」
「いい歳して馬鹿か、お前。ってかいい加減飲むのやめねぇと袋に詰めて可燃ゴミに出すぞ」
そんなことを言いつつ、悪態吐く口ほど目は冷たくない。むしろ笑っているような。
「……何よ?」
「いや。おまえ酔ってるからなんだろうけど」
「うん?」
法資にしては珍しく、大分迷ったような逡巡の後でぽつりと漏らした。
「お前に褒められるのも満更じゃないと思ってな」
くすぐったそうに笑う法資の目尻に薄い笑い皺が出来る。学生のときにはなかったそれがなぜかひどく色っぽく見えてどきりとする。何を意識してるんだ、と自分で自分に叱責する。
「そ、それはどういたしまして」
なぜかもじもじしてしまう泰菜を、法資はいたずらっぽい目で眺めて口にした。
「なぁ泰菜」
「は、はい」
「12年も疎遠にしていて今になってお互い独り身のままで会うのもなんかの縁だと思うよな?」
「……はい?」
なんだこの話の流れ。
法資は手の中でもてあそんでいた泰菜のグラスに口をつけると、何か意を決したようにぐいっと一気に飲み干した。
自分を見詰めてくる法資の目がいつになくやさしげに見えて、思わずじっと見蕩れてしまう。
「おまえさ、どうせフリーなら居酒屋のカミさんにでもなるか」
「……それって、法資のおよめさんってこと?」
法資が片頬をくしゃっと歪ませて、照れたように笑う。幼馴染だという贔屓目を差し引いても、やはりいい男だ。
-------いいね、それ。
答えようとしたのに酔いの回った意識と一緒に言葉か崩れて溶けていった。