三十路で初恋、仕切り直します。
4 --- お酒の失敗は30までに済ませましょう
------法資のお嫁さんか。
小さい頃からずっと一緒にいるはずなのに、思えばそんな想像をしたことは一度もなかった。
勿論法資の兄である英達にずっと憧れていた所為でもあるけれど、法資があまりにもよく出来たモテる男だったのも一因だろう。
法資は成績は常に上位、運動神経も抜群で体育祭でも部活でもいつも中心的な存在として活躍していた。自信家で堂々としているところも男らしいと騒がれていたし、何より女の子ウケする端正な顔立ちとスタイルの良さでたくさんのファンがいた。
一方泰菜は成績も容姿も十人並みで、法資と比べてあまりぱっとしたところのない女の子だった。
おそらく幼馴染でなかったら華やかな法資とは何の接点もないまま、口を利くこともないままだったろう。
引け目があったわけではないけれど、恋愛対象にするだけ無駄だと無意識のうちに法資を「範疇外」扱いにしていたようなところがある。そう割り切っていたからこそ、法資のような男が傍にいても意識せずに「友人」として付き合ってこれていたのだろう。
(それがお嫁さんだなんて)
プライドが高くそれに釣り合う能力も外見も持ち合わせている法資のことだから、パートナーにも高い理想を持っているはずだ。
どこにでもいるような顔立ちの、中身もこれといって特徴のない、おまけに彼より若いわけでもない三十路女などわざわざ生涯の伴侶に選ぶはずがない。
嫁に行くアテも取り得もない売れ残り女の分際で法資に選ばれるなんて、自分が見ている夢ながら面白い趣向だ。夢だと分かりきっているのに法資に口説かれるのも悪い気がしないなと思ってる自分に笑ってしまう。
「……でもさすがにないない、ありえないって」
「何がないって?」
独り言のつもりで呟いたのに、自分の耳元で言葉を返される。まだぼんやりまどろんでいる意識が、その声にやさしく揺り起こされる。