三十路で初恋、仕切り直します。
泰菜が高校一年生で、初彼の津田と付き合いだしてしばらくの頃。
放課後、法資と同じ特進科の津田を教室まで迎えに行ったときだった。津田はいなかったけれど、その場に居残って友人たちと喋っている法資を見つけて泰菜は思わず足を止めていた。
『桃木さぁ、結局この前の現国の吉永とヤッたんだろ?』
聞こえてきたのは、年頃の男同士ならではの下世話な話だった。
『どうよ、年上って。女教師ってやっぱエロいの?』
『エロいに決まってんじゃね?吉永、教師の中じゃダントツ若くて美人だし。なあ?』
どうやら仲間内で法資が手をつけた女子たちを面白おかしく品評しているようだった。仲間たちはげらげら笑いながら盛り上がっている様子だけれど、当の法資はごく冷めた態度だった。
『別に。女なんてどれも一緒だろ』
『うっわ、感じ悪ぃー。だったらブスでも相手にしてろよ』
『ったく、桃木は誰相手でもそれだよな。この前は美河先輩もあっさり捨てやがるし』
ブーイングの沸き立つ中から、ひとり探るような声を上げるひとがいた。
『なあ。前から気になってたんだけどさ、桃木ってやっぱあの子も食ってんだろ?』
『あの子?』
『ほら津田のカノジョのおでこちゃん』
廊下まで聞こえてきたそのあだ名に思わずどきりとした。法資の友人たちや一部のひとに自分が陰でそう呼ばれていると知っていたからだ。
『あの子って桃木の幼馴染なんだろ?やっぱおでこちゃんなんかも、とっくにおまえが手ぇ付けてんだろ?』
『あはは、津田の奴もおまえのことライバル視してるくせに、カノジョがおまえのお下がりって気の毒だよなぁ』
聞くに堪えない言葉で笑いあう友人たちに、法資がぽつりとこぼした。
『------泰菜とはそんなんじゃねぇよ』
『うっそ。女に手の早いおまえが?』
『てっきり桃木はおでこちゃんで童貞捨てたのかと思ってた』
『だよなぁ?なんでいちばんお手ごろそうなの食ってないんだよ』
『あ。ひょっとしてアレか。大切すぎて手が出せなーいっとか、こっ恥ずかしい純情とかあるわけですか、女たらしの桃木くんにも』
『うっせぇな、馬鹿。違ぇよ』
法資は心底不快げに、友人の言葉を否定する。
『むきになってんのがアヤシイなぁ?ほんとは内心津田に奪われて腸煮えたぎってんじゃね?』
『余裕ぶっこいて余所見してる間に大事な幼馴染を別の男にさらわれちゃいました、的な?』
『-----違ぇって言ってんだろッ、あんなガキ臭い奴。女とし見れるわけもねぇし』