三十路で初恋、仕切り直します。
英達は5歳上の法資の兄で、ご近所さんのよしみで小さい頃はよく遊んでもらった。
他校生にもファンが出来るほどモテていた法資と比べられて、「本当に法資くんのお兄さんなの?」とからかわれるくらい地味で凡庸な顔立ちの人だったけれど、泰菜は昔から英達が大好きだった。
「そっかぁ……。英にいちゃんもう37だしね、考えてみれば全然不思議でも意外でもないか」
乱暴で意地悪で勝手なことばかりする法資や同級生の男子たちにうんざりしていた泰菜にとって、ちょっとぼんやりしたところもあるけれどいつも穏やかでにこにこしている英達は、やすらぎを与えてくれる理想的な大人に見えた。
泰菜が高校生のときに思い余って告白して玉砕もしたけれど、振り方も振った後も英達はやさしいままだったから、恋焦がれるような情念はさすがにないもののいまだに憧れるような気持ちだけは引き摺っていたりする。
なにしろ英達は長く片思いをしていた相手だ。
だから現実的な『結婚』の二文字を聞いて、本気で英達との再会やロマンスを期待していたわけでなくとも多少なりともショックを受けてしまった。
それがそのまま顔に出てしまっていたのだろう、意地悪な顔で言われる。
「残念だったな、アテが外れて」
「え?」
「どうせおまえまだ独身だろ?小局扱いされる職場で売れ残って、地元の手近な男で手を打とうとでも考えたんだろ。兄貴が売約済みで生憎だったな」
憎たらしい言葉だけど、あまりに相変わらずな態度になんだか懐かしさを覚えてしまう。
地元にいた頃も、なにかと法資は泰菜を馬鹿にしたり貶すことを口にしては楽しそうに笑っていたし、泰菜が相手にしないでいると機嫌を損ねたり怒り出したり、そんなところがあった。
「……なんだかほっとしちゃった」
「ああ?」