三十路で初恋、仕切り直します。
法資が否定すればするほど仲間たちは面白がって泰菜のことで法資を冷やかした。
『だったらさぁ。お得意の超クールな態度でヤリ捨てちゃえばいいじゃん?それが出来ないってことはやっぱおまえおでこちゃんが好きなんだろ』
『くだらねぇこと言いやがって』
『あっれー、出来ないんですか、桃木くんともあろう男が』
『そうだよ、何とも思ってねぇならチューくらいしちゃえよ』
『まあヤるのはともかく、キスくらいならちょろいよな?おでこちゃんの唇くらいさぁ、津田から奪っちまえって。おまえだって津田ウゼェとか言ってたじゃん?』
『吉永も美河先輩もポイ捨てしたおまえはそれくらい何の罪悪感もなく出来んだろ』
そのとき。
立ち去るタイミングを失ってひっそりと廊下で息を潜めていた泰菜に声を掛ける者がいた。
『おう、相原。こんなとこで何してんだ。暗くなるから女子はさっさと帰れよ』
見回りをしていた教師が通りすがりに泰菜に声を掛けてきた。一瞬にして法資たちのいる教室がしんと静まり返る。
『なんだ?おまえらも残ってるのか?そろそろ最終下校時刻だぞ』
教師はそう言いながら去っていく。一緒にこの場を離れてしまえばよかったのに、泰菜の足は凍りついたように動かなくなっていた。
教室から法資たちが立ち尽くす自分の様子を伺っているのが分かる。法資は泰菜と目が合うと、不機嫌に足音をドスドス立てながら近付いてきた。気まずさに首をすくめる。
『ごめん、あのべつに-----』
べつに立ち聞きするつもりじゃなかった、と言う前にまるで男同士の喧嘩のように胸倉をぐいっと掴まれた。無理やり引っ張られて不安定な爪先立ちの姿勢のまま、強引に法資の唇まで引き寄せられた。
触れたと思った瞬間、呆然とする泰菜の口内に法資の舌がねじ込まれ、まだ何も知らなかった泰菜の歯列や上顎を生温かいそれがなぞってきた。
我に返って抵抗しようとしても、圧倒的な腕力に押さえ込まれろくに身じろぎすることも出来なかった。
法資と自分の唾液が混ざり合い、口内で無茶苦茶に舌を絡ませられるのが気持ちのいいことなのか悪いことなのかの判断もつかないまましばらく法資に好き勝手にされた後、法資は唐突に唇を離し、おまけに泰菜を突き飛ばした。
『ど下手』
まるで見世物のように奪っておいて、法資は心底どうでもよさそうに吐き捨てた。
『手ぇ出さない理由なんて、決まってんだろ』
振り返って、法資は恐々と様子を伺う仲間たちに言った。
『こいつじゃガキっぽすぎてその気になんねぇし、下手すぎて少しも楽しめそうにねぇからだよ』