三十路で初恋、仕切り直します。
「赤ん坊はおまえがこっちに来た昨日の夜にどうにか無事生まれてな。それをさっきおまえを送った後に親父連れて三原台の大学病院まで見てきたんだよ」
法資はそういって懐から取り出した携帯を渡してくる。
「データボックスのフォルダ、いちばん上」
言われたとおりに操作すると、顔が紅潮した赤ん坊の画像が出てくる。
真っ白な産着を着せられてぎゅっと目を閉じた姿で、新生児であることがよくわかる。画面越しにも、ふにふにとしたあたたかい感触と、この世に生み出されてきたばかりのエネルギーが不思議にも感じられてしばらく魅入ってしまう。
「生まれたばっかの赤ん坊って、顔くしゃくしゃで思ってたより可愛くねぇんだな」
法資は苦笑するようにいう。憎まれ口を叩きつつも、自分と血の繋がりを持つ小さな命をいとおしんでいるのが
あたたかい口調で分かる。
「……晶さんは大丈夫なの?」
「ああ。赤ん坊、まだこんな形成途中みたいな顔なのに兄貴と二人でどっちに似てる似てないで喧嘩してたくらいだからな。どこが死に掛けだ、脅かすなってさすがに親父も呆れてた」
ずっと写真を見ている泰菜に気付き、法資が訊いてくる。
「おまえとか女は、そんなんでも可愛いとか思うのか?」
「……可愛いかは……正直、わからない」
産み落とされたばかりで黄色い胎脂がべっとりついている頭は見慣れなくて異様に見えるし、ぎゅっと縮こまった顔面も、たしかに法資のいうように可愛いと感じるにはまだ未完成で、美玲に見せてもらった5歳と3歳の坊やたちの写真のほうがよほど人間らしくてかわいく見える。
でも。
「でも、すごいね。ママが死に掛けそうなくらい大変な状況になっても、すっごいちっちゃな体で頑張って生まれてきたんだね。そう思うと……なんか……なんかすごい感動する」
じんわりとこみ上げてくる熱い情動は、感動と呼ぶ以外に出来なかった。噛み締めるように喋る泰菜をちらりと見て法資は目を細めた。
「見たいんだったら、退院したら会わせてやるよ」
ごく自然に言われた言葉。ここで「うん」と言ってしまえる性格ならよかったのにと思いながら。
「……でもわたし身内じゃないし」
及び腰の返答をすると、法資は正面を見据えたまま返す。
「何言ってんだよ。おまえは半分身内みたいなもんだろ」