三十路で初恋、仕切り直します。
14 --- あなたが手にするもの
「……あのさ、お布団くらい敷いてからでも」
皓々とした蛍光灯に照らし出された居間の冷たい畳の上に転がされながら、おそるおそるそんなことを言ってみる。けれど法資はまるで意に介さないように、仰向けになった泰菜の体に覆い被さってきた。
「そうだわたし、まだお風呂入ってなくて……」
どうにか上半身を起こしながら言っても、すぐに畳に縫い止めるように倒されてしまう。もがいているうちに大きな手が泰菜の体に触れてきた。
「や……待ってよ、わたし絶対汗っぽいし、油臭いよ。今日だってほとんど生産ラインばっかで動いてたし。機械油の変な臭いするでしょ、ほら」
「別に気にならない」
ぴしゃりと言い放ち、法資が泰菜の首筋に鼻先を埋めてくる。
「ひゃ、ちょ、待ってってばッ」
「……うっせぇな。何勿体ぶってんだよ。そういう歳でもないだろ。だいたい俺とお前は前に一度ヤってんだし」
「そういう言い方ないでしょッ!……やっぱわたし、お風呂点けてくる」
懲りずに起き上がろうとしても再び同じやり方で引き戻されてしまった。
「大人しく諦めろ。どうせこの家の風呂、昔の点火式の古い風呂釜なんだろ。この寒い時期、風呂が沸くまでいったい何分掛かるんだよ」
「えっと、4、50分くらいかな……」
「そんな待てるわけあるか、馬鹿」
首筋をいきなり法資の唇で探られて、「うわっ」と奇怪な声が出てきてしまう。
「おまえほんとに色気がないな」
がっかりしたように言われても、さっきまでただの幼馴染でしかなかった相手にいきなり色気なぞ出せるわけも無い。
「そんなの前から分かってたことでしょッ。ねぇ、寒いからヒーターくらい点けてからでも」
「後でエアコンでもガスヒーターでも点けてやる」
泰菜の太腿の辺りに置かれていた法資の利き手が、泰菜の体を意味ありげに辿りながら迫りあがってくる。たってそれだけのことで体に何か痺れるような感覚が走る。
「やめて……それ、やだ」
法資の指を押し止めようとすると法資が意地悪く笑う。
「おまえな。触るくらいで駄目だって言うなら、この先どうするつもりだよ」
本当に、素面のまま法資とこれ以上のことをしてしまったら自分はいったいどうなってしまうんだろう。期待よりも不安がふくらみ、つい法資の胸を両手で押してしまう。
「何だよ」
「……こんなせっかちになることないじゃない」
逃げ腰に言うと、法資の苦笑が泰菜の耳朶をあやしく擽る。
「あのな。おまえは俺の女なんだろ?」