三十路で初恋、仕切り直します。
「…あっ…ま、待って……法資」
部屋の寒さも畳の冷たさもすっかり忘れ去るくらい体が火照った頃。
法資と折り重なっているうちに理性だとか正気だとか良識だとか、そんなものがまとめてどこかへ置き去られていたというのに、いよいよこれから本当に法資のものになるのだというときになってはっと我に返ってしまう。
「……なんだよ」
焦らされたのでも思ったのか、泰菜の両脚を抱えていた法資が目を眇めて耳朶に噛み付いてくる。
「っ……あの、まって、このままだと、ちょっと……」
「ちょっと何だよ?」
だからその、と口篭っていると法資が詰まらなそうに吐き捨てた。
「避妊しろって言いたいのか?」
言い難いことを察して代わりにずばっと言ってくれたことは有難いが、言葉にして出されるとその意味のあまりの生々しさに目が眩みかける。
小さく頷いてから「もし今出来たら困るでしょ」と恥を忍んで言うと「別に」とあっさり返される。
「別にって、そんなどうでもよさそうに言わないでよ」
「どうでもよくなんて思ってねぇよ。けど仮にガキ授かったとしても、一緒になりゃいずれそうなるわけだし、予定が早くなるか遅くなるかだけのことだろ」
「あ、赤ちゃん出来てもいいの?」
同じ問いを繰り返す泰菜に、法資は大きく溜息を吐く。
「だから。そうだって言ってんだろ」
ちいさい頃からの付き合いとはいえ、自分と法資は再会してからまだ数日しか経っていないというのに。成就した恋に逆上せあがって、何を浮かれているんだと冷静な顔をしている自分も自分の中にいるのを感じる。でも。
自分と、法資の子供。
その命が自分の腹の中で実を結ぶことを思わず想像してしまう。
元彼に捨てられ、ひとり泣くことも出来ないでひたすら仕事に奔走するしかなかったついこの間までの自分には想像も出来なかった、そんなおとぎ話みたいな普遍的でしあわせな未来に、自分の指先が届こうとしているのか。
そう思うだけでその圧倒的にあたたかな安堵感に流されそうになる。
けれど。それでも泰菜は法資が重なってくる前に脱力しかかっていた腕をどうにかして突っ張った。
「……だめよ」
泰菜が拒むと、むきになったように法資が荒々しく口付けてくる。
「…だめだってば……」
「10代のガキじゃないし、この歳で困ることなんかないだろ」
「困らないけど……でもこの歳だからこそ、ちゃんと段階踏まないと」