Princess Rigeru
1.発端
初恋の人だったジュンは、総督アクアの征服を恐れて逃亡したのだという。
とても信じられない話だったが、もはや一緒になることのできない相手である。
リゲルは忘れてしまうように努力した。王子と王女の結婚によって統合されるはずだった2つの国は、アクアの東征により実現した。
アクアの部下ライジェルが、リゲルに話をもちかける。
「婚約者であったジュン王子の逃亡により、あなたの地位は今まさにおびやかされようとしています。アクア様はそのことをひどく気になさっておいでだ。そこで、もしリゲル様さえよろしければ、アクア様の妃として、我が国の発展に尽くしていただきたいと、アクア様はそう申しておりました」
リゲルにとって、こんな話は考えられないことだった。ジュンの運命を狂わせたこの男と、どうして結婚しなければならないのか。それなら、王宮を去る方がよほどましである。
そう思い、リゲルは王宮を去る準備をした。
しかし、それさえもすでに計算されていたのである。
アクアは王家の唯一の直系であるリゲルを、利用しない手はないと考えていた。
彼女を王家にとどめておくことは、自分の支持率につながることを心得ていたからである。そのためアクアは、リゲルがすぐに王宮へ戻るような工作をいろいろとした。
普通王宮を出て生活する女性は、なるべく人のいない田舎町で暮らす。そうすれば広い家に召使が何人もいても不思議に思われない。位がわかるような金品は身に着けず、質素ながら上品な恰好をするものであった。
しかしリゲルが馬車で案内された土地は、下町でもとびきり治安の悪い、道路にハエのたかるような街であった。夜でも街の喧騒が聞こえるような通りの部屋に案内され、慣れないリゲルはろくに眠ることもできない。
その上身の回りの世話をするものはいても、外出は一人でしないといけないのである。
最初の3日は家でじっとしていたが、こらえきれずに外へでてみた。