幸せになるために
「過去にそういう事故があったから、先入観というか思い込みというか、別に何でもない事をオカルトチックな何かと結びつけて考えてしまっているだけなんじゃないですかね?」

「私もそう思っているのですが…」

「って言うか、これから契約しようとしてるオレに、そんな余計なこと話しちゃっても良いんですか?」

「あ、いえ。むしろ、こういった情報はきちんと告知しなくてはいけない決まりになっておりますので。後々のトラブルを避ける為にも」

「……そうなんですか?」

「ええ。厳密に言えば、事故や事件が発生した後、最初に契約なさろうとする方にだけ告知する義務があるのですが…」

「え。て事は、一回誰かが住んだら、それ以降は知らんぷり?」

「しかし私どもは、この物件の管理を続けて行く限り、お伝えしていく所存でございます」


鈴木さんは『キリッ』という感じで言葉を発した。


「実際に、今までこのお部屋に興味をもたれた方全員にきちんと説明して参りました。すぐに諦める方もいらっしゃれば、先ほど申し上げました通り、条件に惹かれて契約して下さる方もいらっしゃるという事です。まぁ、結局すぐにまた空き部屋になってしまうんですが」

「で、でも、とりあえず、他の部屋はすべて埋まっているんですよね?」

「はい」

「それなら、多分大丈夫だと思います」


もう、ほぼその部屋に決めようと思っていたところだったし、別の物件の詳細をまた一から聞き直すのが面倒くさくなってきて、オレはそう返した。


「壁や天井板を隔てた向こう側に誰かが居てくれるなら心強いし、それにオレ、霊感のれの字もないですから。きっと何も感じたりはしないと思います」


それに…。

事故で亡くなったその子には何の罪もないのに、勝手に関連付けて大騒ぎして気味悪がるのもなんだかなぁ、という気持ちもあった。


「もちろん、最終的な判断は実際に物件を見させていただいてからですが」

「さようですか。では、さっそく今から内見という事でよろしいでしょうか?」

「あ、大丈夫なんですか?」

「ええ。弊社でお預かりしている鍵がございますので」

「そうですか。じゃあ、よろしくお願いします」


すると鈴木さんは立ち上がり、後方に居る女性に声をかけた。


「田中さん。鍵持ち出すから、一緒に確認良いですか?」

「はい」
< 10 / 225 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop