幸せになるために
最後の方に綴じてあるメモに、付属のペンで自分のケータイの電話番号とメールアドレスを書き込むと、それを破り、同じくここまで歩を進め、オレの背後で待機していた吾妻さんに差し出す。


「はいこれ。部屋に戻ったら登録してもらって良い?」

「分かりました」


吾妻さんはそれを両手で受け取ると、再び笑みを浮かべつつ、改めて宣誓した。


「それでは、良いイブが迎えられるように、お互い準備を頑張りましょう」


吾妻さんがお隣に帰ったあと、リュックとジャケットを所定の場所に片付け、部屋着のパーカーを羽織り、リビングのストーブの電源を入れて夕飯の準備をするべくキッチンへと向かった。


「面倒だから、今日も簡単に済ませちゃおうかな」


呟きながら、レトルト食品やカップラーメンが収納してある食器棚の扉を開け、その前に座り込み、ラインナップを眺めながらしばし考え込む。

すると、パーカーのポッケに入れておいたケータイが震え出した。


「お、来た来た」


急いで取り出しディスプレイを確認すると、予想した通り、メールの着信を知らせるメッセージが。

画面を操作して、さっそく当該メールを開き、本文に目を通す。


【吾妻です。先ほどはどうも。これが俺のメルアドです。電話番号はXXX-XXXX-XXXXです。登録よろしくお願いします】

吾妻さんからの初メールはそこで終わっていた。


「すっげービジネスライク!」


でも何か、吾妻さんらしいよな。

思わず顔を綻ばせつつ、返信メールを作成する。


【メールありがとう。確かに受け取りました。何か報告や、相談する事が出て来たら、これでやり取りしよう。あ。ただ、仕事が佳境に入ってる時は無理しないで良いからね】


そこでちょっと考えてから、続きを打つ。


【今のうちに当日のスケジュールを打ち合わせしておこうかな。イブの日はオレ18時まで仕事だから、シチューは前の日に作っておこうと思うんだ】


月の下旬にいつも、翌月のシフト表が配られるのでそこはバッチリ把握している。


【そんで勤務後、帰り道にあるコンビニでオードブルを仕入れて帰る。そうすると、帰宅するのはだいたい18時半近くなると思うんだよね。そこから色々準備したいから、吾妻さんには45分くらいに、ケーキを持ってウチに来てもらうって事で良いかな?】
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