幸せになるために
「うん。時間的に、オレ達が対応するのはあと一件だね。え~と、次はどこだっけか?」


ワゴンを書庫の入口付近の壁に密着させるようにして置いたあと、デスクに近付き、「団体貸出予定表」が挟んであるバインダーを手に取った。


「〇〇小学校です。図書室の先生から、お正月行事に関する本を20冊頼まれて、私が揃えたんですよね」

「あ~、『在庫がないー』って言ってたやつね」

「だって、〇〇小学校以外にも2校、同じ依頼が来てたんですよ?まぁ、一般開架の児童書と、あと一般書も数冊混ぜちゃって、何とか揃えましたけど」


渡辺さんは若干興奮気味に解説した。


「年末年始のこの時期は、やっぱ依頼内容が被りまくりですよね。書庫の絵本のクリスマスコーナなんか、もう棚がスッカスカですもん」

「まぁ、これでもう予約は落ち着いただろうけどね。クリスマスもお正月も、その時期が終わってから本を見ても何の意味もないんだし」


数週間前からそれらに目を通し、ウキウキワクワク気分を高めて行かないとね。


「もし駆け込みで新たな依頼が来たら、申し訳ないけど冊数を減らしてもらうか、お断りするしかないですね」

「うん」


先ほど保育士さんにも言ったけど、基本、図書館の資料は決められた冊数、貸出期限内ならば遠慮せずにどんどん借りてくれて構わない。

スタッフの手を煩わせる、などという気遣いは無用。

ただし、保管資料は無限に存在している訳ではないので、その権利を得るにはそれなりに動いていただく必要がある。

つまり、ぶっちゃければ早い者勝ち、という事である。

一見シビアなようだけど、個人の利用者は自分が読みたい、借りたい資料が貸出中だったら諦めるか、予約をかけて順番が回って来るまで待っているのだから、団体にもそれを適用するのは当然の事であると思う。

団体貸出特有のルールというのはもちろんあるけれど、根っこの部分は同じというか。

相手によって便宜をはかったり特別扱いしたり、ルールを変えるような事はしてはいけない。

公平に平等にサービスを提供するのが公立図書館の使命なのだから。

そして「ご希望に沿えない場合もあるのでご了承下さい」という内容の事は、やはり書面できちんとお伝えしてある。

とりあえず、今シーズンに関しては団体貸出の対応は無事に終わるのではないかと思っている。
< 107 / 225 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop